「魔法修行者」の親父

こないだの続き。

魔法に凝り固まって常人の枠をはみ出てしまった細川政元。だが、その親父の細川勝元にも怪しい話が残っている。

細川勝元といえば、日本史の試験で「応仁の乱をおこしたのは誰と誰か」なんて問題で必ずと言っていいくらい名前が出てくる。将軍足利義政管領として絶大な権力を握り、富貴を極めていたという。さぞおっかない人物だろうと思ったけど、これが意外にも文化人。枯山水の石庭で有名な龍安寺を建立したのはこの人。

ある夏の夕方のこと。数人の盗賊がこの竜安寺に忍び込んだ。ひそかに方丈をうかがうとしんと静まり返って人の気配も無い。今日は管領もおらず、僧も他行中と見えるは勿怪の幸いと、池の端を伝い戸を押し破って方丈に忍び込もうとすると、思いもかけず、座敷の真ん中に一丈はあろうかという巨大な蝦蟇がうずくまって、盗賊たちのほうをじっと見つめている。そのぴかぴかと光る目はまるで磨きたての鏡の様。

盗賊たちは肝を潰して逃げる気力も失い、その場にへたりこんでしまった。すると、大蝦蟇はたちまち身なりの立派な大将姿に変じて起き上がると、刀を取って、「お前等は何者だ。ここはお前等のような者が来る所ではない」と叱りつけた。

盗賊たちは震え上がりながら、「忍び入った盗賊でございます。どうか命ばかりは」と大将に向かって手を合わせ伏し拝んで哀願した。大将は笑って、床の間にあった金の香合を投げ与えると、「貧困のために盗みをするとは不憫であるから、これを取らせよう。ただし、最前の姿を絶対に人に語ってはならぬ。さあ、早く出てゆけ」と言った。盗賊たちは香合を受け取らず、有難きご芳志なりと言う暇もあればこそ、後も見ずに逃げていった。

後に盗賊のひとりが北畠の捕虜となり、この顛末を語った。

『玉箒木』に載っている話で、作者はこの最後に「細川勝元という武将の正体は実は蝦蟇で、思いがけず忍び入ってきた盗賊に正体を見られたのか。あるいは背後の山中には悪所もあるから、そこから出てきた妖怪だったものか」と結んでいる。この話は中国の『冷斎夜話』という本に載っている話が元ネタであるらしいが、そっちはまだ読んだことがない。