どこからやってくるのか

前述したとおり、盗賊とは必ず集団。個人で泥棒家業をするものは全くの別物。じゃあ、集団になるだけの数の人間が何処に居るのかという話になる。
盗賊が生まれ幅を利かせるのは中央ではなくまずは地方からだ。で、そこらでは普段何をして生計を立てているかと言うとずばり農業。ところが、地方の住人の全てが農業に従事していたわけではない。意外に思うかもしれないが中国の土地で農耕に適した土地は実はそう多くはない。するとどうなるかというと、仕事(=農業)にあぶれてふらふらしている連中がどこの地方にも増えてくることになる。彼らは「閑人」「閑民」などと呼ばれた。早い話がゴロツキ。こういう連中が時としてひとつに纏まって盗賊になった。


ついでに中国の地方行政について軽く。
地方行政のトップは中央から派遣されてくる役人だが、彼らは2・3年もすれば配置換えとなって別の土地へ行ってしまう。これは中央の役人と地方の行政との癒着や叛乱を防ぐためのものだったがはっきり言ってこれでは仕事にならない。役所のどこに何があるのかさえよく分からんままだったろう。
しかし地方行政は一応は動いていた。なんでかと言うと実際の業務に携わる地方下級官吏が大勢いたから何とかなっていたわけ。中国の地方行政を動かしていたのはほとんど彼らだろう。彼ら下級官吏は転勤も昇進も配置換えも無い。さらに言えば政府から給料を貰ってもいない。じゃあ収入は何かと言うと役所に案件を持ち込んだ民間人から取り立てる手数料みたいなものだった。例えて言えば役所には役人は知事しかいなくて、窓口には行政書士司法書士が座っていて、何か役所に訴えに行くといちいち窓口で金を取られるという状況を想像してもらうといい。別の担当の窓口に行けと言われてそっちに行ったらまたそっちでも金を取られるという有様のおまけ付き。まぁご想像どおりこいつらに渡す金額の多寡によって役所の対応はまるきり変わった。これはアタマに来るよな。実際、彼ら下級官吏は民間人にはかなり嫌われた。もっともな話だ。*1
話変わって地方行政のトップである知事。こいつらは何をやってたかって言うと私腹を肥やすことがメインだった。どうせ真面目に仕事に励んでも2・3年でまた別の土地へ飛ばされるんだから無駄だし、任期の間にどれだけ稼いだかが評価の対象になるのだから当然だろう。ここでよくある「無慈悲な役人が住民から税を搾り取れるだけ搾り取った」という話になるかと思うかも知れないが、いやいや、中国4000年の歴史を舐めてはいけない。そんな効率の悪い手段など取らないのだ。第一貧乏人を逆さに吊るしても何も出てこないし。
ではどうしたか。知事が目をつけるのは地方の豪農だった。羽振りのいいところはまあ日本でいえば大地主みたいなもので、大勢の小作人や使用人・用心棒を抱えて辺り一帯の顔役にもなっていた。何かと頼られる親分さんだな。で、そういう奴らが狙われた。まずは何かの罪で捕まえて牢屋に閉じ込め、拷問でも何でもして罪状をデッチ上げて死刑にでもしてしまう。罪人なのだから当然財産は没収。家族もまとめて死刑にしたり、流罪にしたりして後腐れを無くしてしまう。こういうことをやっていた。
やられたほうも黙っていない。ひとり息子がどうにか逃げ出したりとかして「親父の仇を取る。くそ役人なぞぶっ殺してやる」などとぶち上げると、役人は基本的に嫌われているし死んだ親分さんには世話になったっていう腕っ節自慢も集まってくるし自分トコの使用人たちはいるしふらふらしてる閑民もここぞとばかりに集まってくるしで徒党を組み、役所を襲う。これが盗賊のひとつのパターン。
ああ長え。続きは日を改めよう。

*1:水滸伝などで、何かトラブルがあった場合に登場人物たちがすぐ役所のあちこちの部門の役人に金をバラ撒くのはこれが理由。必要に迫られてでもあるし、袖の下でもある。