まとめ

科挙―中国の試験地獄 (中公新書 (15))』にも述べられている通り、科挙はどう考えても無茶な制度であり、弊害も多かった。そもそも科挙の試験範囲はほとんど四書五経の古典の丸暗記でそれを学問と呼べるかって問題もある。
思うに、科挙制度の最大の効果は中国というだだっ広い国全体の識字率を底上げしたことにあるのではないかな。進士が最終目標とはいえ、実際には郷試に受かった挙人ともなれば地方では相当に大きな顔が出来た。世間も挙人さまともてはやしてくれるようになる。なんといっても「文字が読み書きできる」というのは素晴らしいアドバンテージになった。寺子屋の先生や役所に提出する書類を作成する代筆屋などで一生食っていけた。さらに、こうした民間の文人達はお偉い中央の役人が見向きもしないような巷間に流布する話をまとめるという功績も果たした。官林が「低俗な」と見向きもしなかった種々雑多な物語を消滅させなかったのは彼らのような野に埋もれた夢敗れた文人たちだった。偉い。
さらに、こうした文人たちには裏社会からの需要もあった。組織どうしの挨拶や宣戦布告や脅迫文のやりとりには古めかしい文体の整った立派なお題目の文章が必要とされ、教養高い文士を召抱えられる事がその組織の威勢を示す尺度のひとつともなった。
武侠ものにおいても、物語の中の大きな組織であれば必ず誰かしらそういう人材は居る。彼らは立身出世は適わなかった身だが、いいところまでは行ったのであり、だからこそ世間から尊敬もされたのだ。そのへんを知っておくと、ゲームに深みが出るだろう。
俺も科挙の試験に受からず七転八倒する少年とか萌えるなあ(笑)。